金属ガラス:ガラスであって、かつユニーク

すべてのガラスが透明で壊れやすいわけではありません。窓ガラスとは全く異なる、高弾性率ガラスというものがあります。大切なのは内面の価値、とよく言われますが、これはガラスにもあてはまります。鉱物ガラスと金属ガラスの関係を示すのは、その原子構造です。

鉱物ガラスと金属ガラスは、ある意味では兄弟のような関係と言えます。しかし、外観と素材の性質においては、これらは根本的に異なります。どちらもガラスと呼ばれているのは、決まった結晶構造を持たないアモルファス(原子が規則的格子に配置されておらず不規則に並んでいる非結晶質)であるためです。90年ほど前、化学者グスタフ・タンマンは、ガラスの状態を「結晶化せずに固体化した凍結液体」と例えました。

不規則な構造の利点とは

どのような種類であれ、ガラスは、固体を溶かした溶液を、原子が結晶構造になる前に急速に冷却することで作られます。窓ガラスであれば、珪砂、ソーダ灰、石灰などの鉱物が原材料に使用されます。一方で、金属ガラス(アモルファス金属やアモルファス合金として知られる)は、金属融液を衝撃凍結して製造します。そのため、ガラスというよりは従来の金属に似た外観になります。しかしその見た目に騙されてはいけません。金属とは異なり、金属ガラスは、結晶構造を持ちません。それが多くの利点を生んでいるのです。

金属ガラスは特殊な性質を持つ新しい素材です。アモルファス合金はプラスチックのような加工性、鋼鉄のような剛性、そして生体適合性を兼ね備えています。摩耗や腐食に強いので、製品寿命を延ばすことができます。強靭な素材なので、製品小型化のトレンドを受けた小さくて薄い部品が製造できます。

全く新しいハイテク分野への応用

社内スタートアップであるヘレウスアムロイは、金属ガラス、中でもアモルファス合金の開発とアモルファス部品の製造に特化しています。「ヘレウスアムロイは、アモルファス合金を射出成形と3Dプリンティングの両方で加工できる世界唯一の企業です」と説明するのは、同社ビジネスアナリストのネイル アクロウティ。「全く新しいハイテク分野への応用を可能にすべく、アモルファス金属の特殊な性質とヘレウスアムロイの持つ技術ノウハウとを組み合わせています」

金属ガラス製の部品が使用されている重要な分野のひとつが、医療技術分野です。インプラントから医療機器、手術器具にまで使われています。「素材への要求事項が非常に厳しい医療技術分野では、アモルファス合金がその可能性を十分に発揮できます。患者さんのよりよいケアに向けた新しい可能性を切り開いてくれるものです」とアクロウティはコメントしています。

航空宇宙産業も、金属ガラスの利点を活かせる分野です。過酷な環境条件がもたらす負荷に耐えることができるからです。軸受、ドリルヘッド、継手、フラップなど、多くのものがアモルファス合金で作られています。

より薄く、より細く、より小さく

自動車産業では、アモルファス合金は安定性はそのままに、部品をより薄く、より細く、より小さくする役割を担っています。これはまた、新しいかたちのモビリティを可能にします。ドローン用の耐クリープ性ローターブレードや飛行機のキャビン支柱、高精度圧力センサーなど、アモルファス合金は未来のモビリティに役立つ素材です。

しかし、それだけではありません。アモルファス合金はまた、楽器、スポーツ用品、時計、ウェアラブル、さらには様々なロボット部品にも使用されています。「現在のハイテク分野での用途では、従来の素材は限界に近づいています」とアクロウティ。「一方で、金属ガラスは、今後が期待できる素材です。これまでは相容れなかった性質を併せ持っているのです」 この素材は、まだ多くの可能性を秘めています。バリューチェーン全体における共同開発プロジェクトを通して、将来的にこの素材から多くの恩恵を受けることができるでしょう。