カーボンニュートラル化に向けて

貴金属の加工プロセスには多くのエネルギーが必要です。そのため、貴金属生産におけるCO₂排出量を削減し、加工プロセスをよりサステナブルにすることが求められています。それに向け、ヘレウスプレシャスメタルズは製造業者と協働し、化石燃料を必要としない電気加熱式チャンバー炉を開発しました。しかし、サステナビリティ関連のプロジェクトではこれだけではありません。湿式化学で用いられる蒸気発生器や改質触媒の再利用に用いるサーマルオイルヒーターも、グリーン電力への転換を行っています。

ヘレウスプレシャスメタルズは、2025年までにカーボンニュートラル化するという野心的な目標を定めています。これを達成するため、電力は100％グリーン電力を使用します。さらに、世界各国でのエネルギー消費量を20％削減する予定です。そして早ければ2033年までに、化石燃料を完全に撤廃したいと考えています。これらの目標を達成するための重要な鍵は、各生産プロセスにおける技術の革新です。

天然ガスに替えて、グリーン電力を

ヘレウスプレシャスメタルズは、ハーナウ事業所の全製造拠点におけるCO₂排出量を分析しました。すると、チャンバー炉に加え、湿式化学用の蒸気発生器や改質触媒の再利用に用いるサーマルオイルヒーターからの排出量が最も高いことが分かりました。そのため、これら3種の機械について、天然ガスからグリーン電力使用への転換を決断しました。これは、プロセスの最適化とエネルギー消費量の削減につながる見込みです。現在は個別の取り組みですが、今後他の拠点にも拡大させる予定です。いずれも、ヘレウスプレシャスメタルズが目標を達成し、会社全体でサステナビリティを追求するために実践している、数々の施策やプロジェクトの一環です。

チャンバー炉は、貴金属を含有する材料を加工する際に用いられます。従来の炉は天然ガスで運用されていますが、ヘレウスプレシャスメタルズでは将来的に、電気加熱式チャンバー炉を使用する予定です。要求事項をすべて満たす炉は市場に存在しないため、製造業者と協働するプロジェクトチームを立ち上げ、新しい電気加熱式炉を開発しました。最も大きな課題は炉内のエネルギー分布を均一にすることでした。設計者はシミュレーションを重ね、湿度と流れの状況を再現し分析しました。

開発の焦点は、ひとつはエネルギーの最適な利用、そしてもうひとつはエネルギーの回収でした。これまでは、この生産過程で熱としてのエネルギーが失われてきました。さらにこれを冷却するために、追加のエネルギーも消費されていました。新しいチャンバー炉では、高温の排気を冷却せず、これを蒸気の生成に活用します―まさに技術革新です。回収されたエネルギーは、排気の他の処理段階においても利用可能です。全体として、新しい炉は使用エネルギーのおよそ60%を回収し、CO₂排出量を年間約570メートルトン削減することが可能です。

開発段階を終えた今、新チャンバー炉の建設が可能となり、2024年末には操業を開始する予定です。すべてのプロセスに、再生可能エネルギー源を用いた電力を使用します。次のステップとして、排気から有害物質を取り除くサーマルアフターバーナーも、化石燃料からの脱却を予定しています。

CO₂の年間排出量を約2,500メートルトン削減

ヘレウスプレシャスメタルズの新しいサーマルオイルヒーターもまた、貴金属の生産工程のサステナブル化に貢献します。このヒーターは、改質触媒と呼ばれる触媒からプラチナやパラジウムを抽出する、アルカリ分解プロセスの一部を担うものであり、これにはオイルを加熱する必要があります。従来はガスが用いて加熱してきましたが、今後はグリーン電力に替わる予定です。それにより、年間のCO₂排出量が年間約475310メトリックメートルトン削減されます。また、熱を回収し、大規模な加熱回路を4つの個別の回路に分割し、制御システムをインテリジェント化することで、エネルギー消費量をおよそ20％削減します。

チャンバー炉やサーマルオイルヒーターに加え、蒸気発生器も転換が進んでいます。ガス式のボイラーに替え、電気加熱式蒸気ボイラーを使用する予定であり、これにはグリーン電力を使用します。新しい機器では効率が大幅に向上し、かつエネルギー消費量が低減されます。この蒸気発生装置は、年間CO₂排出量を約1,650メートルトン削減します。これは、プロジェクトの中で最も高いCO₂削減量です。

上記の3プロジェクトを合わせると、サステナビリティに大きな影響を与えます。年間100万m³以上の天然ガスが節約でき、年間CO₂排出量をおよそ約2,500メートルトン以上削減します。